- 学生は、企業研究や志望動機づくりにもAIを使い始めています。
- AIは文章を整えられますが、本人の意思や企業理解が深まっているとは限りません。
- これからの採用広報では、学生にもAIにも読み取れる公式情報の厚みが重要になります。
観察対象
本記事は、学生との相談対応・面談で見えてきた傾向をもとに、新卒採用における企業理解とAI利用の変化について整理したものです。
前回の記事では、学生がES作成や面接準備だけでなく、企業研究や会社選びにもAIを使い始めていることについて触れました。
今回は、その続きとして、AIが企業をどのように説明し、その説明が学生の志望動機や企業理解にどのような影響を与え始めているのかを考えます。
AIは企業概要を説明できる。でも、それだけでは学生の判断材料にならない
学生がAIに企業名を入れて「どんな会社ですか」と聞くと、企業概要や事業内容については、比較的正しく整理されることがあります。
公式ホームページに書かれている事業内容、展開しているサービス、企業理念、沿革、事業領域などをもとに、AIは分かりやすい文章を作ることができます。
ただし、それは多くの場合、表面的な理解にとどまります。
学生が本当に知りたいのは、もう少し深いところです。
たとえば、この会社は他社と何が違うのか。自分に合っている会社なのか。仕事はきついのか。ブラックではないのか。口コミに書かれていることは本当なのか。志望理由として何を書けばよいのか。入社後にどんな働き方をするのか。
つまり、学生は企業概要を知りたいだけではありません。自分がその会社を受けてよいのか、選考に進んでよいのか、内定を受けてよいのかを判断する材料を探しています。
しかし、公式情報の中にその判断材料が十分に置かれていない場合、AIの回答はどうしても一般的な表現に寄っていきます。
公式情報が薄いと、AIの回答は一般論や口コミに寄りやすい
企業の公式情報が十分に整理されていない場合、AIは限られた情報から回答を作ることになります。
その結果、事業内容については説明できても、会社ごとの違いや、仕事のリアル、育成の考え方、社員に求める姿勢までは十分に表現されにくくなります。
たとえば、AIの回答では、「幅広い事業を展開している」「顧客の課題に対応している」「若手にも成長機会がある」「風通しのよい社風がある」「安定した基盤がある」「多様なニーズに応えている」といった表現が並ぶことがあります。
これらは間違いではないかもしれません。しかし、その会社ならではの仕事理解にはまだ届いていないことがあります。
「幅広い事業」とは、具体的にどのような顧客に、どのような価値を提供しているのか。「成長機会」とは、どのような仕事を経験し、どのような力を身につけることなのか。「風通しのよさ」とは、仲が良いという意味なのか、意見を出せる仕組みがあるという意味なのか。
そこまで見えなければ、学生は企業を比較できません。
さらに、公式情報だけで判断材料が足りない場合、学生は口コミサイトやSNS、AIへの追加質問に向かいます。AIもまた、口コミや評判、業界一般のイメージに引っ張られた回答をすることがあります。
その結果、企業が本来伝えたい姿とは違う形で、学生に会社像が伝わってしまう可能性があります。
学生は、企業研究の次に志望動機もAIに作らせている
AIの利用は、企業研究だけで終わりません。
学生は、AIに調べさせた企業情報をもとに、そのまま志望動機を作ることがあります。
実際に、学生がAIと一緒に志望動機を作る過程を見ると、AIはかなり早い段階で文章の骨組みを整えます。
業界を志望する理由。その会社に惹かれた理由。アルバイトや学生時代の経験との接続。入社後に貢献したいこと。将来的にやりたいこと。
こうした要素を、AIは読みやすい文章としてまとめます。
そのため、学生は「書けた」と感じやすくなります。文章としては整っていて、言葉遣いも自然で、志望動機らしく見えます。
しかし、ここで注意したいことがあります。
文章が整っていることと、本人がその会社の仕事を理解し、自分の意思で選べていることは同じではありません。
AIが作った志望動機は、企業の魅力や理念への共感をきれいに並べることができます。一方で、「自分はなぜその仕事をしたいのか」「その会社で何を受け止めようとしているのか」「他社ではなくその会社を選ぶ理由は何か」といった本人の意思が、十分に深まらないまま文章だけが完成することがあります。
文章の完成度と、企業理解の深さは同じではない
これからの採用では、ESの文章だけを見ても、学生の企業理解や志望度を判断しにくくなるかもしれません。
AIを使えば、文章は整います。企業ホームページや採用ページに書かれている情報も、自然な志望動機に組み込むことができます。
しかし、面接で少し聞き方を変えると、答えられなくなる学生もいます。
たとえば、その会社のどの仕事に興味があるのか。その仕事のどこが大変だと思うか。他社ではなくなぜその会社なのか。企業理念のどこが、実際の仕事とつながっていると思うか。入社後にどのような努力が必要だと思うか。
志望動機の文章には書いてあっても、本人の中で整理できていなければ、自分の言葉で説明することはできません。
学生本人も、必ずしも手を抜きたいわけではありません。何を調べればよいのか、何を理解すれば志望理由になるのか、どこまで考えれば十分なのかが分からないため、AIに頼っていることもあります。
AIが作った文章をそのまま提出しているように見える学生の中にも、実際には「この会社を本当に受けたいのか分からない」と感じている学生がいます。
ここに、企業と学生の新しいズレがあります。
企業は、整った志望動機を見て「理解している」と受け取る。学生は、整った志望動機を見て「これでよい」と思う。しかし、実際には、仕事理解や意思決定はまだ深まっていないことがあるのです。
企業理念は印象に残っても、仕事にはつながっていないことがある
企業ホームページや説明会では、企業理念が強調されることがあります。
学生も、理念に好印象を持つことがあります。「人を大切にしている会社だと思った」「社会に貢献している会社だと感じた」「考え方に共感した」という言葉も出てきます。
しかし、その理念が実際の事業や仕事とどうつながっているのかが分からないと、志望理由にはなりにくくなります。
学生は、理念そのものに共感できても、その理念がどの事業にどう表れているのか、どの仕事でその考え方を実感できるのか、若手社員はその理念のもとで何を求められるのか、顧客に対してどのような価値提供をしているのかまでは読み取れないことがあります。
その結果、志望動機では「理念に共感しました」と書いていても、その先が深まりません。
AIも同じです。公式情報に理念と事業の接続が十分に書かれていなければ、AIは理念を引用することはできても、その会社ならではの仕事理解までは表現しにくくなります。
理念を掲げることは大切です。ただし、採用においては、その理念が仕事、顧客、社員育成、若手への期待とどうつながっているのかまで伝えることが必要です。
「明るい会社」だけでは、学生にもAIにも伝わりにくい
採用ページでは、明るい職場、仲の良い社員、風通しのよい社風がよく表現されます。
もちろん、雰囲気を伝えることは大切です。学生にとって、一緒に働く人や職場の空気は大きな判断材料です。
ただし、多くの会社が同じように「明るさ」や「仲の良さ」を打ち出しているため、学生から見ると広告的に見えてしまうことがあります。
写真や動画で楽しそうな雰囲気を見せても、それが会社の本当の姿なのか、採用向けに作られた表現なのか、学生には判断できません。
特に、SNSで社員が明るく振る舞っている様子を見て、逆に不安になる学生もいます。
「自分もあのように振る舞わなければいけないのか」「明るくないと合わない会社なのか」「本当に仕事の場面でもこうなのか」と感じることがあるからです。
学生に伝えたいのは、単なる明るさではないはずです。
本来伝えるべきなのは、なぜ社員同士が協力しやすいのか、困ったときにどう支え合うのか、若手が失敗したときにどう育てるのか、厳しい仕事をどう乗り越えているのか、会社として社員をどう見ているのかといった考え方です。
明るい写真よりも、明るさを生み出している会社の思想や仕組みが伝わった方が、学生には深く届きます。そしてそれは、AIにも読み取られやすくなります。
仕事のきつさを書かないことが、かえって不安を大きくする
採用ページでは、仕事の魅力や成長環境が強調されます。
一方で、仕事のきつさや、入社後につまずきやすいところは、あまり書かれないことがあります。
企業としては、学生に不安を与えたくないという意図があるのかもしれません。しかし、学生側から見ると、きつさが見えないことがかえって不安になる場合があります。
学生は、仕事が楽だと思っているわけではありません。むしろ、社会人になることや、仕事についていけるかどうかに強い不安を持っています。
だからこそ、何が大変なのか、どこでつまずきやすいのか、それを乗り越えるために何を身につけるのか、会社はどのように支えるのか、どの段階でどのような成長を期待しているのかを知りたいのです。
仕事の厳しさを伝えることは、学生を遠ざけることではありません。
本気で向き合いたい学生にとっては、むしろ安心材料になります。自分が何を覚悟すればよいのか、何を努力すればよいのかが見えるからです。
AIに企業を説明させる場合も同じです。公式情報の中に、仕事の厳しさとそれに対する育成・支援の考え方がなければ、AIはそこを十分に説明できません。
研修制度は、仕事とつながって初めて判断材料になる
多くの採用ページには、研修制度が掲載されています。
新入社員研修、OJT、階層別研修、資格取得支援、メンター制度。こうした制度は、学生にとって安心材料になります。
ただし、制度名だけでは、学生は十分に理解できません。
学生が知りたいのは、研修があるかどうかだけではなく、何をできるようにする研修なのか、実際の仕事とどうつながっているのか、どのような能力を求められているのか、どの段階でどのような成長を期待されているのか、つまずいたときにどう支えてもらえるのかということです。
研修制度と仕事内容、求める能力、キャリアの作り方がつながっていなければ、学生は入社後の自分を想像できません。
特に中小企業では、学生がキャリアパスをイメージできていないことがあります。一度入社したら、ずっと同じ仕事を続けると思っている学生もいます。
会社側から見れば、実際には経験の積み方や役割の広がりがあるかもしれません。しかし、それが公式情報として見えていなければ、学生にもAIにも伝わりません。
これからの採用広報は、人間だけに向けたものではなくなる
これまで採用ページは、主に学生に読まれることを前提に作られてきました。
しかし、これからは学生本人だけでなく、AIも企業情報を読むようになります。
学生はAIに聞きます。AIは公式情報やWeb上の情報をもとに回答します。その回答を見て、学生は企業を理解したり、不安になったり、志望動機を作ったりします。
つまり、企業情報の伝わり方は、採用ページ上だけでは完結しなくなっています。
AIの回答内容を企業が完全にコントロールすることはできません。しかし、学生に理解してほしい情報を公式情報として置いておかなければ、AIも学生も拾うことができません。
これからは、採用広報を「人間に魅力的に見せるためのもの」としてだけ考えるのではなく、「人間にもAIにも誤解なく理解されるための公式情報」として整える必要があります。
広告的な言葉だけでは、AIには通用しにくくなるかもしれません。表面的な魅力だけでは、学生の不安も解消されにくくなります。
必要なのは、仕事の本質です。
何を提供している会社なのか。誰のどんな課題を解決しているのか。理念と事業はどうつながっているのか。若手に何を期待しているのか。仕事の厳しさは何か。それを乗り越えるために、会社はどう育てるのか。他社と比較するとき、何を見てほしいのか。
こうした情報が、学生にもAIにも読み取れる形で置かれていることが大切です。
まとめ:AIに読まれる時代ほど、公式情報の厚みが問われる
学生は、企業研究や志望動機づくりにAIを使い始めています。
AIは、企業概要を分かりやすく説明できます。志望動機を整えることもできます。学生にとっては、心強い存在になることがあります。
しかし、AIの回答が整っていることと、学生の企業理解が深まっていることは同じではありません。
公式情報が薄ければ、AIの回答は一般論や定型表現、口コミ、業界イメージに寄りやすくなります。その回答をもとに学生が志望動機を作れば、文章は整っていても、本人の意思や仕事理解が十分に深まらないことがあります。
だからこそ、企業側には、学生に本当に理解してほしい情報を公式情報として整えることが求められます。
AIにどう答えさせるかを完全に操作することはできません。しかし、AIにも学生にも拾ってほしい情報を置いておくことはできます。
採用ページは、これから学生だけが読むものではなくなるかもしれません。AIを通して、学生に企業情報が届く時代が近づいています。
そのときに必要なのは、飾った言葉ではなく、企業の仕事の本質です。
学生が理解し、比較し、納得して選べる情報を、企業がどれだけ公式に示せているか。AI時代の採用広報では、その厚みがこれまで以上に問われていくはずです。
ビーティーウィズユーが大切にしていること
ビーティーウィズユーでは、学生が企業や仕事を十分に理解しないまま選考に進むことを、できるだけ減らしたいと考えています。
AIを使うこと自体が問題なのではありません。大切なのは、AIが作った言葉をそのまま答えにするのではなく、学生本人が自分の考えや不安を整理し、自分の言葉で選べるようになることです。
そのために、私たちは学生との面談や相談対応を通じて、企業情報をどう受け取っているのか、どこで不安を感じているのか、どの言葉が伝わっていないのかを確認しています。
企業にとっても、学生にとっても、採用は数を合わせるだけの場ではありません。仕事内容や会社の考え方を理解し、納得したうえで出会うことが、入社後の定着や活躍にもつながっていきます。
一人でも多くの学生が、仕事内容や会社の考え方を十分に理解し、納得したうえで、社会人としての第一歩を踏み出せるように。
ビーティーウィズユーは、採用前の理解づくりを大切にしています。
新卒採用で、学生に仕事内容や会社の考え方がどのように伝わっているかを整理したい企業様へ。
ビーティーウィズユーの法人向けサービスについては、以下のページでご案内しています。
※求人票などのご準備がない段階でも、まずは情報交換としてご相談いただけます。
※本記事は、学生との相談対応・面談で見えてきた傾向をもとに、個人が特定されないよう一般化して作成しています。
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